見ていない光景の自由。

よーぞーらーのー、ほしからふーるー、のところだけ覚えている曲がある。文字の音と、メロディと。
たぶん何かのミュージカルの、「モーツァルト!」(通称「M!」)だっけ、その劇中曲のひとつ。


乙女座会の「銀貨」というインクがあって。水色や緑が絶妙なバランスで調色された、ラメ入りではないのに「これは確かに銀貨の色だ」と思わせる不思議な遊色なのだけど、そのインクで文字を書くと決まってこの歌と、見たことのない光景を思い出す。


ホコリひとつない凛とひえて澄んだ空気、冬の夜空に星が瞬いて、それとおんなじように光る金貨がぴかぴか降ってくる光景。それを見ていつも、ああクリスマスだからだな、と思う。

私はM!を観たことがないので、その曲がどんな場面で歌われ、どんな表現をされているのか全く知識がない。場面どころか、歌っているのが男性か女性かも知らない。私の頭のなかで流れるのは母親のような子どものようなふわふわころころとした音で、強いて言えば初音ミクちゃんのAppendに近い。

 

このあいだ帝劇に足を運んだときM!のDVDを買ったから、観ようと思えばそれこそ今からでも確かめることができるのだけど、なんとなくそうしないままもうすぐふた月になる。

視覚と聴覚とで”正解”を入力してしまえば空想は弾けるだろうので、もったいながっているのかもしれない。

 

ところで。意識してそうしたわけではないけれど、わたしがこの曲で浮かぶイメージはおそらく、聖ニコラウスの金貨の逸話とおなじ根っこなんだろうと思う。

わたしの母方はお寺の子で父方はそこそこ熱心な檀家さんで、わたし自身がミッション校出身なくらいでキリスト教には縁のなく育ってきたのだけど、西洋の楽器と西洋の楽曲で思い浮かぶのはだいたいキリスト教の(土着信仰を塗りつぶすために作られた)やわらかい物語で、おもしろいな、と思う。